走る豚~親子2代で紡ぐ放牧豚のものがたり~

f:id:fujiicyanneru:20180417095006j:plain走る豚の誕生

 事件が起きたのは今から21年前、1997年のことでした。きっかけは、菊池渓谷近くの山奥で浮上した、産廃処理場計画…。

 地元で起きたこの計画に武藤計臣(むとう けいしん)さんは仲間たちと一緒に反対運動をしました。どのようにして食い止めるか考え、選んだ方法は、その土地を買い占めてしまうこと。結果、見事に計画を中止に追いやることに成功しました。しかし、武藤さんたちの手元に残ったのは、広大な土地と多額の借金だけ…。そして、反対運動を共にした仲間たちもだんだん縁遠くなっていってしまいました。

 その土地で無農薬栽培を行いましたが、以前その土地で使用された多量の化学肥料の影響が残っており上手く野菜が育ちません。ただただ広い土地を目の前にして途方に暮れていた時にふと思いました。『広い土地が余っているならその時に飼っていた豚を放してあげたら喜ぶのではないか』と。それまでの武藤さんは、多くの畜産農家と同様、1頭/1㎡といった密飼い状態で飼っていましたが、それが一気に1頭/80㎡に!ストレスから解放された豚たちは広い土地をどんなに喜んで走り回ったことでしょう。

 

時代は流れ次の世代へ

 現在、走る豚を育てる中心となっているのは武藤さんの長男の勝典(かつのり)さん。家業を継いだのは12年前。車の販売員でした。他人が作った物を人に薦めることに違和感を覚えるようになり、一念発起しました。「農作物は一から全部自分で作った物。どれだけでも説明できます。収入は減りましたが、心は裕福になりました。」

 簡単に放牧と言っても労力が何倍もかかり、走り回れる環境で育つ「走る豚」はたくさん体を動かすので通常の養豚より太りにくく、餌の量も増えます。しかし「それでも安全でおいしい肉を届けるために続けています。何より、豚が一番喜んでいますから。」と勝典さんはおっしゃられます。

 勝典さんが手間を惜しまず、愛情たっぷりに育てた『走る豚』。脂身が甘く、臭みの少ない肉です。一度、食べてみてください。f:id:fujiicyanneru:20180417094845j:plain